群青色の時間

遥かなるマスター・オブ・ライフ<人生の達人>への道

こうの史代「この世界の片隅に(全3巻)」

<若干のネタバレあり>

 

今年も8月がやってきました。

この世界の片隅に」は、戦時中の広島から呉のある家に嫁いだ主人公と、市井の人達の日常を描いた作品です。
こうの史代さんが「漫画アクション」で2007年から約2年間連載されていました。

映画化されたアニメは先日公開1000日を迎え、今も映画館での上映が続いています。
公式サイトの劇場情報を確認すると、今日現在で全国17館で上映されているようです。
2016年11月の封切時にはわずか63館での公開でした。
この年の秋は映画「君の名は。」の歴史的ヒットで大騒ぎだったので、「この世界の片隅に」は本当にひっそりと「片隅」で上映されているというイメージでした。
カープファンの私は、広島を訪れた際に告知のポスター等を見かけて映画が公開されることを知っていましたが、当初は地元の今治では上映されておらず、初めて観たのは2017年1月になってからです。

ここまでの興行収入も動員数も、「君の名は。」の約一割といったところです。
それでも63館でスタートした映画としては異例のヒット作と言えます。
一時期は301館まで拡大されていたそうです。
SNS等の口コミでじわじわと動員を増やしていく様子も楽しんで追っていました。

この作品は、普通の日常を壊してしまう戦争という悲劇の中で生きる人々を、映画を観る側に思想を押し付けることなく描いています。
作中の緊張感の緩急が上手く、重々しいだけにもなっていません。
あまりにも感動して、今まで7回映画館で鑑賞しています。
ブルーレイボックスも買い、テレビで放送されたらまた観ている始末です。

こうの史代さんによる漫画が原作ということで、映画を観た後に読みました。
映画には描かれていないエピソードも多く、少し違った印象で読み進めました。

1945年に呉が空襲され始めてからのいくつかのやり取りが印象的です。

最初の呉への空襲に関して、被害は軽微だった、という報に対し、「『軽微』のう…。いうてもわしら空襲の相場を知らんけえのう…」という台詞。
それは確かにそうだったでしょうね……。
比較の対象となる体験を誰もしていなかったわけですから。

空襲で亡くなった人の遺体が放置されている様子を見た通りすがりの人達の、「ありゃまだ片付けんのかね」、「珍しがって壕に入らんかった罰じゃげな…」という会話。
これは想像もしたことがなかったですが、好奇心で防空壕に入らなかった人がいたというのはリアルな話のように思います。
毎年のように台風で荒れる川や海を見に行って亡くなる方がいますが、共通するところがあります。

また、空襲とは別の話題で、敢えて詳しいシチュエーションは書きませんが、個人的には「困りゃあ売れるしね!」という台詞に色々と考えさせられました。
自分が生きている時代の状況や常識や価値観で、過去の人達の行動を安易に非難することはできません。
歴史の解釈は本当に難しいです。 

この世界の片隅に 上 (アクションコミックス)

この世界の片隅に 上 (アクションコミックス)

 
この世界の片隅に 中 (アクションコミックス)

この世界の片隅に 中 (アクションコミックス)

 
この世界の片隅に 下 (アクションコミックス)

この世界の片隅に 下 (アクションコミックス)