群青色の時間

遥かなるマスター・オブ・ライフ<人生の達人>への道

うちの師匠はしっぽがない落語会

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先週末の9月4日、天満天神繁昌亭で開催された「うちの師匠はしっぽがない落語会」に行ってきました。
TNSKさんによる漫画「うちの師匠はしっぽがない」(略称「しっぽな」)にちなんだ落語会です。

入場前に繁昌亭すぐそばの天神さん(大阪天満宮)にお参りし、本日の会が無事に開催されることについて御礼申し上げました。

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尚、大正時代を舞台にしている「しっぽな」ワールドには繁昌亭は存在しませんが、大阪天満宮は度々登場します。
人間の私には「天神ちゃん」の姿は見えませんが(笑)。

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今回の会は、作品中に登場する演目を中心とした落語4席と住よし踊、そして作者のTNSK先生を交えたトークコーナー、という構成でした。


オープニングトーク: 作者TNSK×笑福亭生喬・月亭天使
看板の一: 露の紫
遊山船: 笑福亭生喬
仲入
住よし踊: 笑福亭生喬、露の紫、月亭天使、入谷和女(三味線)、桂弥っこ(太鼓)
引き出物: 桂三扇
崇徳院: 月亭八方


オープニングトークは着物姿のTNSK先生と、笑福亭生喬師匠、月亭天使さんが登場。
出囃子が「しっぽな」アニメ化記念動画のBGMの生演奏という素晴らしい演出でした。
「あ、あの動画のBGM!」と思ったのですが、あまりにも普通に演奏されていたため、私が知らないだけで元々存在する寄席囃子なのかもしれない、などと考えていました。
後からTNSK先生のTwitterの投稿で、下座の皆さんがサプライズで動画の音楽を耳コピで演奏されていたということを知りました。

このトークコーナーはTNSK先生のお話を生で聞けるという貴重な機会。
先生曰く、大正時代に女性落語家が活躍するというのは史実とは異なるものの、男だから、女だから、という観念では描きたくなかったとのこと。
歴史的に男性社会である落語界で現実の女性噺家がよく言われるであろう「女のくせに」といったような表現は、この作品には出さないと決めているそうです。

生喬師匠は、「しっぽな」の登場人物である恵比寿家歌緑の台詞が印象に残っているといいます。

「本当に君は面白い(中略)でも君が面白くちゃ意味がない」、「ボクはつまらない人間だけど ボクの中の奴らは中々に面白い」(第4巻収録第18話)。

生喬師匠が自分の師匠である六代目笑福亭松喬師匠から常々言われていた教えと重なるということでした。
松喬師匠の考える落語の姿とは、回り始めた映画のフィルムが途中で止まることなく上映を続けるが如く、一旦噺に入れば演者は落語の世界を描くことに徹し、決してお客に素の自分を見せてはいけない、というもの。
つまり、演者個人のキャラクターで笑いを取ろうとするのは邪道である、というのが松喬師匠の持論だったそうです。

非常に興味深いお話を色々聞くことができました。
個人的には生喬師匠が天使さんのことを「米朝師匠の筆頭玄孫(やしゃご)弟子」と称していたのが面白かった。
天使さんは桂米朝師匠の玄孫弟子第一号の噺家さんです。
存命中に玄孫弟子を持った落語家は東西通じて米朝師匠が初だと言われています。

オープニングトークに続いては、露の紫さんによる「看板の一(ピン)」。
第5巻収録第21話に登場する噺です。
今回紫さんが演じられたのは、江戸弁のおやっさんが登場するバージョン。
過去にもこのタイプの「看板の一」を聴いた記憶はあるのですが、誰が演じていたんだったろうか……。

続いては笑福亭生喬師匠の「遊山船」。
記念すべき「しっぽな」の第1話で大黒亭文狐が演じている演目です。
はめ物(鳴り物)も入って上方落語らしい噺。
生喬師匠の「遊山船」は初めて拝聴しました。
序盤の出店の売り声がパワフルで、にぎやかな情景が鮮やかに浮かびます。
喜六の嫁さんの最後の台詞が粋の極みで、個人的に大好きな噺です。
ちなみに、喜六と清八が夕涼みに繰り出す難波橋は先日このブログで紹介していますので、よろしければそちらもご覧下さいませ。

https://soja.hatenablog.com/entry/2021/08/09/160623

仲入の後は「住よし踊」が披露されました。
「住よし踊」第2巻収録第6話で描かれています。
主人公のまめだが初めて寄席の舞台に立つシーンでした。

続いて、桂三扇師匠演じる「引き出物」。
この日唯一の新作落語でした。
結婚式の引き出物や中元・歳暮等、押し入れに放置したまま眠らせているというあるあるを擬人法を用いて描いています。
新作の中でこれは好きな噺です。
マクラの「しっぽがない師匠もいるんですねぇ」という話に場内爆笑(笑)。

トリは月亭八方師匠による「崇徳院」。
第1巻収録第2話に登場する演目です。
崇徳院の「瀬をはやみ岩にせかるる滝川のわれても末に逢はんとぞ思ふ」という歌がキーフレーズとなる噺。
作中で熊五郎が「瀬をはやみ~」と口ずさみながら町をうろつきますが、その「瀬をはやみ~」にああいう節がついている演出は初めて聴きました。
サゲは鏡が出てくるバージョンでした。

今回の「しっぽな落語会」、上方落語の魅力を堪能できるとても良い会だったと思います。
「しっぽな」を読んで初めて落語を聴きに来たというお客さんも多かったようです(露の紫さんが挙手を促すと、約1割が初めて落語を聴きに来た方だった模様)。
アニメ化されることが先日発表されたこの作品をきっかけに落語に興味を持って、寄席に来て落語が好きになる方が増えることにつながれば、こんなに素敵なことはありません。
このブログでもどんどん推していきたいと思います。

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