群青色の時間

遥かなるマスター・オブ・ライフ<人生の達人>への道

相沢沙呼「medium 霊媒探偵城塚翡翠」

【ネタバレあり】


相沢沙呼氏によるミステリ小説。
2022年には清原果耶さんの主演で実写ドラマ化もされた作品である。

霊媒の力を持つ城塚翡翠と、彼女のその能力を駆使する作家・香月史郎が、殺人事件の謎に挑む物語。
「超能力的な力が使えるなら何でもありで、推理ものとして成立しないのでは」と思うが、翡翠の霊能力は万能なものではなく得られる情報は限られたものであり、それを香月が論理的な筋立てに変換して事件を解決に導くという流れで、ミステリの変化球として非常にうまく作られている。
……と思って読み進めましたよ、素直な読者ですから。

終盤の超展開に唸る。
作中でも触れられているが、事件の謎の解明に至るまでの筋書きが事実上2つ用意されている。
最初は「これ、香月の一人称にした方がわかりやすいのでは」と思って読んでいたが、一人称では駄目だということがあとでわかる。
作品のタイトルが「霊媒探偵城塚翡翠」になっていることについて、「探偵役は香月やけどな」とツッコミながら読み進めて、最後にはやっぱりタイトルどおりだったらしいと知ることになる。
色んな意味でまんまと騙されましたよ、愚鈍な読者ですから。

あざとい演技でもほとんどの男性は信じ込む、という翡翠の台詞がある。
これに関しては、「男性作家が描くヒロインによくあるキャラ設定だな」と思いつつ読んでいたが、作中でその点を指摘するための布石だったとは。
そして香月の筆名にも、物語の真相に繋がるヒントが隠されている。
目に見える形で提示されていたのに。
完全に作者の掌の上で転がされてましたよ、チョロい読者ですから。

エピローグまで読んで、結局城塚翡翠とは何者で、本来の人となりがどうなのか、またも混乱する。
なんとも言えない読後感。
巻末の解説で、作者の相沢氏はマジシャンでもあるということを知る。
全ての謎の答えが描かれないままに、種が明かされないままに閉じられる物語。
まるで、読むマジックだった。
とんでもない次元の面白さを体験させていただいた。