上方落語の舞台の歩き方シリーズ。
水都大阪(大坂)の情景を表した言葉に、浪華八百八橋というものがあります。
今回取り上げるのはその大阪の橋のうちの一つ、難波橋。
大阪市の大川に架かる橋で、北側から渡ると西天満から中之島を跨いで船場の北端である北浜に至ります。
写真のように獅子の像がこの橋のシンボルで、「ライオン橋」とも呼ばれています。
難波橋が登場する落語と言えば「遊山船」。
代表的な夏の噺です。
夏の日、大川端に夕涼みにやってきた喜六・清八という二人の男。
川を行く屋形船を難波橋の上から眺める二人のやりとりを中心に展開する噺です。
出店の売り声や花火の見物人の掛け声等がはめ物(鳴り物)を交えて演じられる上方落語らしい演目です。
現在の難波橋は大正年間に架けられたもので堺筋の一部ですが、それ以前は一本東側の難波橋筋に架かる橋でした。
「遊山船」に登場するのは、難波橋筋にあった難波橋ということになります。
喜六・清八の眼下に、碇の模様の揃いの浴衣を着た人達を乗せた船がやってきます。
橋の上から声をかける清八。
「よぉよぉ! さても綺麗な碇の模様!」
船に乗っている女性の一人がそれに応えます。
「風が吹いても流れんように」
いやー、この場面は最高です。
数ある上方落語の演目の中でも屈指の粋な台詞ではないでしょうか。
これを隣で聞いていた喜六は自分も同じやりとりをしてみたくなり、家に帰ると妻に真似事をしようと持ち掛けます。
妻は碇の模様の浴衣を着て庭のたらいの中に座り、それを屋根の天窓から見下ろす喜六。
しかし長らく押し入れに突っ込んでいた浴衣は酷い汚れようです。
「とても綺麗なとはよう言わんなぁ……。
よぉよぉ! さても汚い碇の模様!」
「質へ置いても流れんように」
機転が利いた粋な返答。
喜六の妻、センス良すぎでしょ。
咄嗟にこんな台詞を繰り出せるようになりたいわー。