群青色の時間

遥かなるマスター・オブ・ライフ<人生の達人>への道

愛宕山

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今回は上方落語の「愛宕山」の舞台である京都の愛宕山を紹介します。

落語ファンである私の趣味の一つに、落語の縁の地巡りがあります。
いわゆる聖地巡礼ですが、今回取り上げる愛宕山には古くから多くの参拝者を集める愛宕神社が山頂に鎮座しており、本当の意味での聖地です。

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愛宕神社は火伏の神を祀る神社として知られています。
この京都・愛宕山愛宕神社は、全国に約900社ある愛宕神社の総本社。
「火迺要慎(ひのようじん)」のお札を台所に貼っておくと、火災から守っていただけると言われています。

しかしながら、落語の「愛宕山」という噺では、登場人物が山頂の愛宕神社に到達するまでは描かれていません。
山の中腹の茶店の近くで弁当を食べ、かわらけ投げをきっかけに大騒ぎするシーンで噺は終わります。
とは言え、一行の目的地が愛宕さん(愛宕神社)であるということははっきりと語られています。

この「愛宕山」の時代設定は明治初期。
その頃はトレッキングシューズではなく、下駄や草鞋で山を登っていたことになります。
昔の人は健脚だったんですねぇ。

祇園町から西へ西へ。
 鴨川を渡ります。
 二条のお城も尻目に殺しまして、野辺へ出ますと春先のことで空にはヒバリがちゅんちゅんさえずっていようか、下にはレンゲ、タンポポの花盛り。
 陽炎がこう燃え立ちまして、遠山にはすーーーっと霞の帯を引いたよう。
 麦が青々と伸びて、菜種の花が彩っていようという本陽気。
 やかましゅう言うてやって参ります。
 その道中の陽気なこと―――」

ハメモノ(鳴り物)も入って、上方落語らしく華やかな噺です。

愛宕山では実際にかわらけ投げをする場所があったようで、跡地に説明のボードが立てられています。

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しかし、作中で幇間の一八(いっぱち)が傘をパラシュート代わりに飛び降りた崖は描写からして垂直に近いような崖だと思われますが、実際の場所はそこそこ急な斜面、程度のものでした。

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まあ、落ちたら怪我をするくらい危険なのは間違いありませんが。

桂米朝師匠が若手の頃に「愛宕山」の稽古をつけてもらった際、「この噺は嘘ばかりで、実際の愛宕山とは違うので行かない方が良い」と言われたそうです。
うーん、なるほど(笑)。

しかし、この愛宕山が京の人達に親しまれてきた存在であることは間違いないことです。
落語の「愛宕山」に登場する一行が、祇園から徒歩で移動して愛宕山の山頂まで登っていたというのがどれほどの運動量だったのかということも、ある程度実感することができました。
愛宕山は登りやすいルートでも往復5時間ほどかかるとされており、祇園からの行き返りを考えると朝何時頃に出発したんだろうかなど、色々想像が膨らみます。
まあそのあたりは、上述の「この噺は嘘ばかり」とも絡んでいるのかもしれませんけども。

いずれにしても、やはり落語ファンとしては訪れておきたかった場所であり、その後に「愛宕山」を聴く時の印象も変わったような気がします。

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