群青色の時間

遥かなるマスター・オブ・ライフ<人生の達人>への道

桜宮 feat. 百年目

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大阪に引っ越してきてから3年になります。
上方落語が好きな私にとって、大阪は街全体がテーマパークのようなものです。
大阪で生まれ育った人達には当たり前のことでしょうが、ずっと聴いてきた落語の舞台である街に住んでいるというのは今でも不思議な感じがします。
よそ者だからこその感覚なのかもしれません。

そんな落語ゆかりの地を少しずつ紹介していきたいと思います。
桜の季節なので、初回は大阪を代表する桜の名所である桜宮を選びました。
上方落語の大ネタ「百年目」の舞台となった場所で、櫻宮という神社にちなんでこのエリアは桜宮と呼ばれています。

「百年目」では、船場の大店の番頭が仕事を抜け出して東横堀の高麗橋のそばから船に乗り、大川を上って桜宮に花見に行きます。
店の営業時間に遊んでいるので、最初は花も見ずに船の障子を締め切っているのですが、酒が進むとだんだん気が大きくなってきて、障子を開けろ、となります。
この障子を開けるシーンがこの噺の聴きどころの一つです。

「さーーーっと障子を開けますというと、桜宮がひと目に見えます。花はちょうど今が満開で、薄紅の刷毛で流したような。(中略)千差万別の春景色でございます」

この場面、鳴り物がすっと止んで、噺家の情景描写で客に桜の咲き乱れている風景を想像させる演出が良いんですよねぇ。

「百年目」は、私が初めてきちんと聴いた落語の演目です。
桂米朝師匠が喜寿の際に開催された最後の大ホールでの独演会。
私はその時に演じられた「百年目」をテレビで観て感動し、落語が好きになりました。
言葉だけで客の脳内に情景を構築する落語という芸に衝撃を受けたものです。
初めて聴いた落語が米朝師匠の「百年目」でなかったら、こんなに落語にはまり込むことはなかったと思います。

この「百年目」という噺は、米朝師匠が最も難しいネタであると語っていたものです。
登場する色々な職業の老若男女を演じ分けなければならず、終盤の店の主が番頭に話しかける場面では聴衆に嫌味な印象を与えてはならない等、本当に演者の力量が必要な演目だと思います。

「人を使えば苦を使う、てなことを言うて、使う者には使われる者にはわからん苦しみがあるんやそうで」

マネジメントの難しさは今に通じるものがあると思います。
旦那の立場、番頭の立場、それぞれがそれを理解してこそ、現場はうまく回ります。
損な役回りになりがちな番頭ポジションの人がしっかりマネジメントをし、経営者の旦那ポジションの人がきちんとフォローするというのが理想なのでしょう。

「百年目」、深い噺です。

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