群青色の時間

遥かなるマスター・オブ・ライフ<人生の達人>への道

長田悠幸、町田一八「SHIORI EXPERIENCE ジミなわたしとヘンなおじさん 第1~13巻」

この漫画は、数年前にビレッジバンガードで推されているのを見て知った作品です。

 

【以下ネタバレあり】

 

地味で影が薄い女性高校教師・本田紫織の一家は、紫織の兄の丈二がバンド活動をする中で音楽業界の人間を名乗る人物に騙され借金を背負わされて失踪しており、残された家族はその返済のために貧しい生活を強いられています。
本当は自分もギタリストとして音楽活動がしたかったという気持ちを押し殺して生活していた紫織は、27歳の誕生日になぜか伝説のギタリストであるジミ・ヘンドリクスの霊に憑りつかれ、“27歳の最終日までに音楽で伝説を残さなければ死ぬ”という曖昧な運命を一方的に宣告されます。
彼女は勤務している学校で軽音楽部を作って生徒の中から部員を集めてバンドを組もうと考えます。
それから、様々な境遇に置かれた生徒たちがそれぞれの思いを持ってバンドに加わり、“27歳のうちに伝説を残さなければ死ぬ”という紫織の運命は知らぬまま、バンド活動に邁進する、というお話です。

青年誌で連載されている作品ですが、ミュージシャンの霊に憑りつかれるというファンタジー要素と、一方でバンドメンバーが完全に自力でスキルを上げていくど根性要素がないまぜとなり、この上ない熱血系漫画となっています。
音楽に、バンド活動に、各登場人物が没頭するに至る物語も丁寧に描かれており、人間ドラマとしての仕上がりも素晴らしい作品です。

正直最初は、ジミヘンに憑依されるという設定から、ギャグ要素が強い作品なのかと思っていました。
しかし、読み始めるとすぐにそうではないことに気づきます。
巻を追うごとにストーリーの熱さが増していて、どこで涙してしまうかもわからない状態のため、もはや外では読めません(笑)。
個人的には、第1話から吹奏楽部のエースとして登場している光岡が“追加戦士”だったということがわかった時、それから13巻のライブのシーンで特に目黒と川崎の絆を感じさせる描写が激熱です。

自宅で書籍がスペースを取るためにこの作品も途中からKindleで購入しているのですが、13巻は大迫力の見開きが多く、ページを繰るリズム等も考えると、紙の本で読みたいと感じました。
電子書籍より紙の本、ということを初めて強く感じさせられた作品なわけですが、紙の上に音楽と共通するリズム感が構築されているからなのだと思います。

SHIORI EXPERIENCE(シオリ エクスペリエンス)」、もっとたくさんの人に読んでいただきたい作品です。
音楽に興味がある人もない人も楽しめると思います。
これまでになかった感覚を体験(EXPERIENCE)できる漫画です。