群青色の時間

遥かなるマスター・オブ・ライフ<人生の達人>への道

夏目漱石「倫敦塔」

何回か前の投稿で、松尾芭蕉は妄想系旅人だと書きました。<松尾芭蕉、河合曾良(福島市)
それで思い出したのが夏目漱石の「倫敦塔」です。

漱石は1900年から1902年にかけて英国に留学しており、その際に訪れたロンドン塔に着想を得て書かれた短編小説が「倫敦塔」です。
ロンドン塔の歴史を踏まえた漱石の空想による描写が特徴的な作品です。
漱石も相当な妄想系観光者であると言えます。

ロンドン塔(Tower of London)はテムズ河畔にあり、1066年にイングランド王となった征服王ことウィリアム1世が建設を命じたホワイトタワー(漱石は白塔と訳している)を中心とした要塞です。
中世には監獄としても使用され、王位や宗教を巡る争いなどから、王族を始めとする数多くの人達がここで処刑されました。
現在では世界遺産となったロンドン塔は、英国の血塗られた歴史を今に伝える存在です。

私は2003年に、漱石から約100年遅れてロンドン塔を見物しました。

ロンドン塔のそばにはロンドンのシンボルの一つであるタワーブリッジ漱石は塔橋と訳)が架かっています。
漱石が「倫敦塔」の中で、タワーブリッジを渡ってロンドン塔に行ったと書いているので、私も同じルートを辿りました。
タワーブリッジが完成したのは1894年なので、漱石が留学していた頃はまだできて間もなかったということになります。

私がロンドン塔を訪れたのは、普通に観光することに加えて漱石聖地巡礼的な意味合いもあり、「倫敦塔」の収録された文庫本を持参していました。
漱石もここを歩いたのか~」、「ここで立ち止まってこの壁に刻まれた文字を読んだんだな」などと考えながら見て回るのもなかなか乙なものです。
漱石が妄想していた姿を妄想する」という二重妄想状態(笑)。

作中に書かれている壁の文字などもそのまま実際に存在しており、漱石の時代から100年の時を超えているとは言うものの、長い歴史の中では100年など大した時間ではないのかも、などと感じさせられたものです。

ちなみにこの小説「倫敦塔」には、妄想系観光の楽しさを解さない人とのやりとりも描かれています。
100年以上も前に書かれた作品ですが、妄想系観光者にとって、ここは非常に共感できる要素だと思います。 

倫敦塔・幻影の盾 (新潮文庫)

倫敦塔・幻影の盾 (新潮文庫)