群青色の時間

遥かなるマスター・オブ・ライフ<人生の達人>への道

粉じゃない米粉の話

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2010年代初頭、1年半ほど中国に住んでいたことがあります。

中国は途方もなく大きな国なので、地形も方言も民族も文化も多岐に渡ります。
昔に比べると色々なものが均一化されては来ているでしょうが、それでもその土地その土地の独自のカラーが残っていて、旅行していて飽きることがありません。

食文化にも地域によって色々な特色があります。
素材の味を活かすように調理する地域や、辛くなければ料理じゃないとばかりに唐辛子を投入しまくる地域など、個性が際立っています。
同じ辛い料理でも、とにかく唐辛子の辛さで攻める地域もあれば、近年日本でも人気が出ているらしい「麻辣」的な味付けを好む地域もあるなど、なかなかに奥が深いものです。

そんな中、食習慣について、大きく二つに分けられる要素があります。
主食が米か小麦か、ということです。
大雑把に言うと、北部では小麦をよく食べ、南部では米をよく食します。

中国北部は水があまり豊富ではないので、米と比べると少ない水で育つ小麦を主食とする文化になったと言われています。
興味深いことに、日本でも同様の現象が見られます。
香川県でうどん文化が発達したのは、瀬戸内式気候で降水量が少ないことに加え、大きな河川がない地域であったために水の確保が容易ではなく、米より小麦の方が育てやすかったからだと聞いたことがあります。

話が逸れましたが、中国北部では小麦粉を水でこねて蒸しパンのようにしたものをかじりながらおかずを食べる人が多く見られます。
一方南部では、炊飯した米を食べるのはもとより、粉末にした米で作った麺もよく食べられています。
東南アジアでもライスヌードルが好まれていますが、地理的に近いので納得というところです。
ちなみに、中国語では「麺」というのは小麦で作ったものに限るので(厳密には、麺という言葉を小麦粉という意味で使っている)、ライスヌードルについては「米粉(ミィフェン)」と呼んでいます。
麺状になって粉じゃなくなっていても「米粉」です。

私が住んでいたのは、中国大陸の南の端にある広西チワン族自治区という所でした。
広西チワン族自治区というのは、広東料理で名高い広東省の西隣にあります。
省と同じようなものですが、チワン族という少数民族が多い地域なので、広西チワン族自治区となっています。
中国にはマジョリティである漢民族とは別に、55の少数民族が存在し、その中でチワン族は最も人口の多い少数民族です。
自治区とは言うものの、日本人の私にはどの程度の自治権を与えられているのかよくわかりませんでしたが。

広西は中国南部でも米粉文化が発達した地域で、町によって味付けも米粉の形状も多様です。
例えば、私が住んでいた南寧市という町では、きしめんのような幅広の米粉を辛いスープで調理した「老友粉」というものが名物でした。
この場合、「粉」だけでも米粉を意味します。

そんな広西の米粉の中でもエース的存在なのが、「桂林米粉」です。
全国的にもとても知名度が高く、中国全土で桂林米粉という看板を掲げた店を見ることができます。
桂林というのは、水墨画のような美しい風景で有名な町ですが、中国では米粉でもその名を知られているのです。
桂林米粉は、やや太めの切り口が丸い米粉に肉やら漬物やら豆やらをトッピングし、色んな調味料や香辛料で作ったタレをかけたものです。
かなりいい加減な説明ですが、このタレだけ取っても一体どうやって作っているのかわかりません。
まあとにかく旨いんですよねこれが(無論ハズレの店も一定数ある)。

桂林で食べたあの味を再現したいと思っても、日本ではあまり売られていない材料が使われていたりすることもあって、とても個人が家庭で出せるものではありません。
先日、神戸の南京町(中華街)で米粉を見つけ、懐かしくなって買ってはきたものの、同じ味にはできないので、せめてできるだけそれっぽい感じにして食べようと思案しています。
ちょっと研究が必要です。

ちなみに、上の画像に写っているのが南京町で購入した米粉ですが、パッケージの写真は桂林米粉ではありません。
そもそも中国っぽくもないですし、外国に輸出することを前提にした商品だと思われます。

 

旅名人ブックス76 桂林・貴州省・海南島

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